14世紀末(1393年頃、フランス・パリ)
クレスプ
14世紀末フランスの家政書『ル・メナジエ・ド・パリ』に記された、穴あき器から油へ生地を回し落として揚げる中世の揚げ菓子「クレスプ(Crespes)」。現代の平焼きクレープとは異なる中世独特の揚げ菓子を、現代家庭向けに安全性を考慮して考案した未試作(untested)の再現レシピ案です。

MODERN RECREATION
現代向け再現案
材料
作り方
- ボウルにふるった薄力粉と塩を入れ、溶き卵、白ワイン(または代用の水)を加え、泡立て器で混ぜる。水を少しずつ注ぎながらダマがなくなるまで十分に泡立てて混ぜ合わせる。泡立て器を持ち上げたときに途切れず細く流れ落ちる流動性に整える(粉の性質により水の量を加減する)。[重要・衛生注意:生の小麦粉や生卵を含む生地は絶対に生食しないでください。生地を作った後は室温に長時間放置せず、作業前後の手や器具、作業台は十分に洗浄・消毒してください]
- 食品用として耐熱性・油耐性が確認された絞り袋(先端を直径4〜5mmに切る)、または流量調整ができるディスペンサー容器、あるいは漏斗を準備し、生地を注ぎ入れる。あらかじめ火元から離れたボウル等の上で少量の生地を垂らし、詰まらずスムーズに流れるか確認する。[安全注意:熱い油や鍋の縁、火元に手や器具が直接触れないよう十分注意してください。器具の外側は清潔かつ乾燥した状態を保ち、火元の上で無理に絞り出したり詰まりを直したりしないでください]
- 揚げ物に適した深さのある安定した鍋(深底フライパンや小鍋)に揚げ油を注ぐ。※ご使用のコンロ・鍋の取扱説明書に指定された適合鍋・最低油量・加熱モードを必ず守ってください。指定量を下回る油量での加熱は火災や過熱の原因となり大変危険です。中弱火で約160〜170℃を目安に加熱し、調理油用温度計で温度を管理する。[最重要・油火災時の安全手順:加熱中は絶対に鍋から離れず、油を過熱しないでください。万一油が発火した場合、絶対に水をかけず、燃えている鍋を運ばないでください。安全に操作できる場合のみ熱源を切り、退路を確保してください。安全に初期消火できる初期の小さな火に限り、調理油火災に対応した消火器を表示・使用方法に従って使用し、消火が困難または危険な場合は無理に鍋へ近づかず直ちに避難して消防へ通報してください(日本国内では119番、他地域では現地の緊急通報先へ連絡)]
- 油の表面から安全な距離を保ち(油に近づきすぎず、かつ油が飛び散らない低めの位置)、生地を中心から外側に向かって渦巻き状に細く途切れさせずに回し落とし、直径12〜14cm程度の円形に生地同士を重ね合わせる(未試作のため投入量は控えめにする)。[安全注意:一度に大量の生地を投入すると油面が急上昇し油が溢れたり跳ねたりして危険です。必ず換気扇を回し、袖や衣服が火元に近づかないよう注意してください]
- 中弱火で1分〜1分半ほど揚げ、底面が薄いきつね色になり生地が固まったら、フライ返しやトングで静かに裏返し(原典に裏返しの指示はありませんが、現代家庭の平鍋調理で両面を均一に揚げるための現代案です)、もう片面も30秒〜1分ほど揚げる(合計約1.5〜2.5分の目安)。[衛生・加熱確認:重なり合った生地の中心部まで十分に火を通してください。焼き色や揚げ時間だけで判断せず、生の粉や卵を含む未加熱の生地が残っているものは絶対に食べないでください。急激に返すと油が跳ねるため、静かに扱ってください]
- 油をよく切って清潔な網やキッチンペーパーに取り出す(生の生地を扱った器具とは別の清潔な器具を使用すること)。温かいうちに清潔な皿に盛り、茶こし等で粉砂糖をまんべんなく振りかける。粗熱を取りながら、出来立ての温かいうちにいただく。[注意:揚げたての生地と油は非常に高温のため、口内の火傷に十分注意してください]
HISTORICAL RECORD
歴史的な根拠・参考史料
参考史料は料理の歴史的背景を示すものです。現代レシピの分量や加熱時間を保証するものではありません。
史料に基づく記述
14世紀末のフランス・パリで編纂された家政書『ル・メナジエ・ド・パリ(Le Ménagier de Paris)』(1393年頃成立)第2巻 第二部第五項に、「Crespes(クレスプ)」の名称で揚げ菓子の製法が収載されている。底本としてJérôme Pichon校訂による1846年刊本第2巻印刷p. 226の記述を確認した(原典本文には処方番号の印刷はない)。
原典には材料として、小麦粉(fleur)、germeと呼ばれる部分を除いた卵黄と卵白(œufs tant moyeux comme aubuns, osté le germe)、水(eaue)、塩(sel)、ワイン(vin)、揚げ油脂としてのラード(sain)またはラード半分・新鮮なバター半分(moitié sain ou moitié beurre frais)、仕上げの粉砂糖(pouldre de succre)が明記されている。
原典では、鉄または真鍮(arain)の平鍋(paelle)を火にかけて油脂を泡立たせ(fremier)、小指大の穴が開いたボウル(escuelle percée d'un pertuis gros comme vostre petit doit)に生地を入れ、鍋の中央から周囲へと糸状に流し落として加熱し、皿に盛って粉砂糖を振りかける手順が指定されている。
原典は材料構成や調理器具の寸法(容量3ショピーヌ、縁の高さ指半分、上下同幅の寸胴型)を定性的に規定したものであり、材料の具体的重量(g・mL)、個数、加熱温度、分数は本文に記載されていない。
現代の家庭調理においては、機器や鍋が指定する最低油量の遵守、過熱防止、油火災時に絶対に水をかけないこと、適合消火器の使用と早期避難、生粉・生卵の生食防止と衛生管理、アレルゲン表示の確認が公的安全基準上不可欠である。
推定・解釈
- 「Crespes」という名称は中世フランス語で「ちぢれた、縮れた(crêpé)」を意味するラテン語crispusに由来し、現代フランス語の「クレープ(crêpe)」と同根の語彙である。ただし現代の平たく薄く焼くクレープとは製法が大きく異なり、穴あき器から熱い油脂に生地を糸状に落として揚げる中世独特の揚げ菓子であった。レース状や鳥の巣状の完成形は、細流を重ね合わせる記述に基づく現代の再現的解釈の一つである。
- 原文の「vin」はワイン全般を指し、白ワインとは限定されていない。また卵の「germeを除く」という記述について、現代の解剖学的部位である胚やカラザと当時の語義が完全に一致するかは定かではないが、卵白内の固まりを除いて滑らかな流動性にする意図があったとする解釈がある。隣接する別処方「トゥルネー風クレスプ」には温かい白ワインや串で裏返す指示があるが、本処方の記述とは区別される。
- 『ル・メナジエ・ド・パリ』は宮廷の公式饗宴録ではなく、裕福なブルジョワ市民が若い新妻に向けて編纂した家庭の実用教本である。仕上げに貴重な砂糖(粉砂糖)を用いる点に中世末期の富裕市民層の食卓文化が反映されているが、当時のフランス全土で一般庶民まで広く普及していたかまでは原典から断定できない。
現代向けの調整
- 原典に具体的計量がないため、現代の一般家庭で調理しやすい少人数分量(薄力粉100g、卵1個)として各食材の配合を独自に設計した未試作(untested)の再現案である。鍋や油量は機器の指定(コンロや揚げ鍋の取扱説明書)を最優先とし、原典の半指高の浅い鍋ではなく、安全な深さのある揚げ物対応鍋を使用する。
- 原典の穴あきボウルの代わりに、現代の食品用耐熱絞り袋、ディスペンサー容器、漏斗などを利用する案を提示した。ただし容器の耐熱性や油耐性を事前に確認し、火元の上で無理に絞り出さないなど火傷・油ハネ防止の配慮が必要である。
- 原典の揚げ油はラードまたはラードとバター半々であるが、現代の家庭環境に合わせて取り扱いやすい揚げ物用植物油を基本とした。バターの風味を加える場合は、乳固形分による焦げ付き、水分による油ハネ、発煙のリスクがあるため、冷たい油の段階から合わせるなど慎重な管理を要する。
- ワインの選択として一般的な辛口白ワインを採用したが、加熱後もアルコール分が残留する可能性があるため、お子様やアルコールを控える方向けに水への全量代替を案内した。原典にない裏返し工程は、家庭用フライパンで両面を均一に加熱するための現代的な調整である。生の粉や卵の生食を避け、重なった中心部まで十分に加熱する必要がある。
- 公的機関(NITE、横浜市消防局、米国CDC)の安全基準に基づき、機器指定油量の遵守、過熱防止、油火災時に水をかけないこと、適合消火器や早期避難・通報の基準、生粉・生卵の衛生管理、小麦・卵・乳のアレルゲン情報を明記した。
参考史料・出典
- 『ル・メナジエ・ド・パリ(Le Ménagier de Paris)』第2巻 第二部第五項「Crespes」出典を開く: https://archive.org/details/le-menagier-de-paris-tome-02-bsb
Jérôme Pichon編『Le Ménagier de Paris』(Paris: Crapelet, 1846年版、Tome 2, p. 226)所収の第二部第五項「Crespes」(処方番号の印刷なし)を主根拠として参照。原典には材料(小麦粉、卵黄・卵白、水、塩、ワイン、ラードまたはラード・バター半々、粉砂糖)と調理法(穴あき器から油に回し落として揚げる)が定性的に記されているが、具体的な重量・個数・温度・時間は未記載。中世の肉筆写本原本の直接校訂は未実施。
- 製品安全注意喚起「揚げ物調理における注意と事故防止」出典を開く: https://www.nite.go.jp/jiko/chuikanki/press/2022fy/prs220901.html
コンロや調理器具が指定する最低油量・適合鍋の遵守、少量油での過熱火災リスク、加熱中の離席厳禁に関する公的注意喚起として参照。
- 横浜市消防局「天ぷら油火災 ナベのフタによる初期消火と注意点」出典を開く: https://www.city.yokohama.lg.jp/bousai-kyukyu-bohan/shobo/kasaisonae/shoki/tenpura/tenpura3.html
調理油火災時の公的初期対応(絶対に水を注がない、燃える鍋を動かさない、安全な場合のみ熱源停止、退路確保、適合消火器の使用と早期避難・通報)の基準として参照。
- CDC「Raw Flour and Dough」食品衛生ガイドライン出典を開く: https://www.cdc.gov/food-safety/foods/no-raw-dough.html
未加熱の小麦粉や生卵を含む生地の生食防止、中心部までの十分な加熱、手や調理器具・作業台の洗浄と交差汚染防止に関する公的安全基準として参照。
画像の制作・出典情報
© History Meshi (AI-generated recreation image / AI生成による再現イメージ)
出典: Modern adaptation concept based on Le Ménagier de Paris (c. 1393) / 『ル・メナジエ・ド・パリ(Le Ménagier de Paris)』(1393年頃)に基づく現代向け再現案の料理イメージ
利用許諾: Original site asset (not an actual cooking or historical source photograph / 実調理・史料写真ではありません)